有酸素運動は筋肥大にマイナスになる?その原理とは!?
「ダイエットなら筋トレの後に有酸素運動をすると効果的!」
こういう理論がネット上ではよく見られますよね。
コレ自体は間違いではなく、キチンとエビデンスもある理論なのですが、誰にでも当てはまるものではありません。
特に、筋トレをしてしっかりと筋肉を付けたい方には要注意。
筋トレ後の有酸素運動は、筋肥大にマイナスになる場合があります。
そのカギを握るのが「AMPキナーゼ」という酵素。
今回は、筋トレと有酸素運動の関係についてご紹介します!
筋トレ後の有酸素運動で脂肪が燃えやすくなる
東大の石井直方教授らが行った研究によると、高負荷の筋力トレーニングを行った直後に60分の有酸素運動を行ったところ、筋力トレーニングをしなかったグループに比べて、脂肪燃焼効果が有意に高かったというデータが示されています。
これは、筋力トレーニングによって分泌されるるアドレナリン、ノルアドレナリン、成長ホルモンなどの各種ホルモンの働きによるものと考えられています。
筋肉に強い刺激が与えられると、その刺激に対応するために沢山のエネルギーが必要になります。
身体はこのエネルギーを脂肪の分解によって賄おうとするため、体脂肪の分解が促進されるというわけです。
このため「ダイエットなら筋トレの後に有酸素運動をすると効果的!」というのは、一定のエビデンスがある正しい方法という事になります。
筋肥大が目的なら有酸素運動はマイナス
・脂肪の燃焼か?
・筋肉の肥大か?
あなたのトレーニングの目的が、上記のどちらなのかをもう一度考えてみましょう。
脂肪の燃焼が目的なら、筋トレ後の有酸素運動は有効です。
しかし、筋肥大が目的なら、その真逆の研究結果がいくつも示されています。
有酸素運動を行ってエネルギーを消費すると、細胞内の「AMPキナーゼ」という酵素が活性化します。
この酵素は、細胞内のエネルギー不足をスイッチとして活性化し、細胞内への糖質や脂質の取り込みを促進し、さらに筋肉の合成を抑制します。
運動によって細胞内のエネルギーが枯渇しないよう、血液中からエネルギー源をどんどん取り込み、さらにエネルギー不足の状態では筋肥大などしている場合ではありませんから、筋肉の合成は抑制する。
つまり、AMPキナーゼは身体を「省エネモード」にする酵素なのです。
具体的に言うと、AMPキナーゼにはタンパク質の合成スイッチをオンにする「mTORシグナル伝達系」の働きを抑制する作用が確認されています。
インスリンと並ぶ血糖値降下因子
人間は、食事によって糖質を取り込み血糖値が上がると、膵臓からインスリンが分泌されて血糖値を下げます。
インスリンは骨格筋を始めとする全身の細胞に糖質を取り込ませることで、血中の糖質濃度を下げる働きをしますが、何らかの原因によって細胞のインスリン感受性が下がり、インスリンの働きで糖質を取り込めなくなると、余った糖質は血中を漂うことになり、血糖値を下げられなくなります。
これが2型糖尿病の典型的な症状です。
しかし近年の研究で、AMPキナーゼはインスリンとは全く別の原理によって糖質を細胞内に取り込んでいるため、インスリン感受性が下がっていても血糖値を下げられる事がわかりました。
AMPキナーゼは細胞内のエネルギー枯渇によって活性化するため、各種の運動によって筋肉中のエネルギーを消費することで、AMPキナーゼが活性化し、インスリンとは独立した働きで糖質の取り込みを促進します。
つまり、インスリン感受性が低下した糖尿病患者でも、運動によって血糖値を下げられるという事です。
しかし、AMPキナーゼは同時に筋肥大を抑制する作用があるため、筋トレのような運動で筋肥大を目指す場合は、運動中にエネルギーが枯渇しないような配慮が必要と言うことです。
それはつまり十分な栄養補給ということで、当然ダイエットとは逆行しています。
体脂肪の減少と筋肥大は同時進行出来ないのです。
筋肥大目的なら筋トレと有酸素運動は切り離す
石井教授らの研究によれば、AMPキナーゼの活性化と、mTORの活性化については次のようなことがわかりました。
@AMPキナーゼの活性化は有酸素運動の直後に最大となり、1時間ほどでベースラインに戻る
AmTORシグナル伝達系の活性化は、筋トレ刺激直後から3時間後にかけて最大になる
Bタンパク質合成は筋力トレーニングの6時間後から上昇し始める
このため、筋力トレーニングの後に有酸素運動でAMPキナーゼを活性化させてしまうと、mTORシグナル伝達系が阻害されて筋肥大が抑えられてしまいます。
筋肥大を主目的としている場合、筋力トレーニング後と有酸素運動は最低でも6時間以上離したほうが良さそうです。
筋トレ前なら有酸素運動はアリ?
上記の研究では、筋力トレーニングの前に有酸素運動を行う実験も行っています。
この場合には、mTORシグナル伝達系の活性化は影響を受けませんでした。
これは、AMPキナーゼは有酸素運動直後に活性化するものの、1時間でベースラインに戻るため、mTORシグナルが最大になる筋トレ3時間後には、すでに影響がなくなっているためと考えられています。
さらにマウスによる実験では、有酸素運動の後に筋トレを行ったほうが、筋トレだけを行うよりもタンパク質合成が促進されたという実験結果もあります。
しかし、人間の場合は持久的運動によって中枢神経系が疲労するため、有酸素運動で疲労しすぎてしまうと、筋トレの強度が極端に落ちるというデメリットも考えられます。
筋肥大が主目的の場合、筋トレ前の有酸素運動は、あくまでも「身体を温めるウォームアップ」程度に留めた方が良いでしょう。
出典:http://kentai.co.jp/kentai-news/sports_seirigaku/